8月3日(土)に開催されたスズキ・メソード幼児教育研究会の夏期研修会。
今年もオンラインで展開され、昨年に次ぐ127名が参加しました!

 
 スズキ・メソードの理念に共鳴する幼稚園・保育園で組織される「スズキ・メソード幼児教育研究会」の第10回夏期研修会が、8月3日(土)、Zoomを使って開催されました。オンライン研修は、移動に伴う時間と経費を必要としないため、全国に点在する幼児教育研究会(大分・宮崎・大阪・長野・福島)にとっては、まことに好都合なツールとなっています。今年は127名の参加があり、昨年に次ぐ規模となりました。
 午前8時半には、各地からのオンライン会議場への入室が始まりました。司会進行役は、宮崎市の光が丘幼稚園の下苙先生。各教室との交信状態を確認後、スタートしました。
 
 まずは、午前9時の開校式で双葉ヶ丘幼稚園の土居孝信園長先生からお話がありました。「昨年に続き、今年も127名の皆様が参加です。今日はスズキ・メソードの早野龍五理事長兼会長(8月3日時点での肩書き)からの基調講演をはじめ、0〜3歳児コースを実践されてこられ、大変パワフルな松井やすよ先生のご講演もあります。期待することがたくさんあります。今日の研修から得られた気づきを、鈴木先生のように、各園で即実践してほしいと思います」
 

基調講演は、今年も早野龍五・才能教育研究会理事長兼会長

 

 早野龍五理事長兼会長からは、「スズキ・メソードの世界への飛翔〜60年のあゆみと未来への展望」として、以下の内容について、お話をいただきました。
①第73回夏期学校について
・5年ぶりにフルに対面形式での開催
・暑さ対策のために、冷房設備のない「あがたの森」が使えず、人数制限を実施
・特別講師によるコンサートは、1,600名の聴衆が入場され、大盛況
・子どもの多い聴衆なのに、静かに聴き入る姿には、特別講師からも感嘆の声があがった
 
②テンチルドレンコンサートのこと
・第1回のテンチルドレンコンサートは1964年3月
  東京オリンピックの7ヵ月前

  日本人が観光目的でパスポートを取得できない時代
  固定相場で1ドルが360円
  航空券の明細が残っていて、それを見ると1,158.6ドル。417,096円に相当
  当時のサラリーマンの月収が27,200円の時代
  よくもその時代に実施できたと思う
・スズキの「どの子も育つ」を見せるため、育った子どもたちの現物を見せることが目的
  8ページの英文冊子を会場で配布。鈴木先生の文章をワルトラウト夫人が英訳
  繰り返して弾くこと、前の曲も欠かさず復習することなどポイントを明記
  あえて公式和訳は作らないが、高校生レベルでわかる英語
  その現物は、こちらからダウンロード可能
   →Every Child Can Be Educated.pdf
・今年、第1回から60年となる記念に、3回のコンサートを実施
  言葉で「どの子も育つ」というよりも、その結果を実際に見せることが大切
  今年は、鈴木バイオリンの本社がある大府、そして大阪と東京で実施
  今後も本会の主催として実施予定
 
③鍵となるのは世代継承と言語化
・10月に国際ティーチャートレーナー会議を松本で開催
・次世代の指導者をどう育てるか、スズキの真髄をどう継承するか
・日本のスズキと国々での違いを知り、対応を考える場になった
・日本の「卒業制度」についても重点的に検討。「指導者を育てるためのもの」という認識を伝えた
・オンラインの活性化で、地域を超えたレッスンへの対応も協議
・ヨーロッパスズキ協会が実践しているその国の言語でのマニュアルも参考になる
・これからは、見て覚えるだけでなく、きちんと言語化することでスズキの理念を伝えることが必要
・日本の0〜3歳児コースは、その意味でも言語化に力を注いできた
・スズキの指導者になるための、ステップアップするためのガイダンスが必要。そのための言語化を急ぎたい
 
 いずれも現在進行形の、旬の話題ばかり。幼児教育研究会加盟園の若い保育士の皆さんにも、とてもわかりやすいお話でした。土居会長からは、「次の方に渡す、という覚悟をお持ちなんだなと思いました。未来への展望を感じた次第です。私の住んでいる大分県中津は福沢諭吉の里ですが、私が若い頃に師事したのは渋沢栄一でした。『論語と算盤』です。弟子たちが書いたものが論語であって、いまでも私たちは大切にしたいところです。算盤という観点も大切。それと、これまでに何度もお願いしていますが、指導者を育成する学校という体型もご検討いただければと思います。私たちの全国の仲間たちが応援しますので。2024年11月10日(日)には、私どもの10周年の記念式典・祝賀会を松本で開催しますので、ぜひいらっしゃっていただければと思います」


 

続いて記念公演 
松井やすよ先生
才能教育研究会ヴァイオリン科指導者 ISA. SECE 0〜3歳児コース元日本代表

松井やすよ先生

 長年にわたり、幼児教育研究会とスズキ・メソードの0〜3歳児コースとの間では、情報交換をしたり、実際に共通問題に関して意見交換するなど、交流を深めてきました。その中でもキーパーソンとして動かれていたスズキ・メソードの松井やすよ先生を講師にお招きし、「スズキ・メソード乳幼児教育プログラムの日本発信」と題して、お話をいただきました。ちなみに、SECEとは、Suzuki Early Child Educationのことです。

 冒頭、松井先生は鈴木先生から直接かけられた言葉を紹介されました。「いいものは残るからね、私は草葉の陰で見ているからね」と。それをきっかけに、それまでお稽古嫌いだった松井先生が、松本の才能教育音楽学校で毎日7〜10時間も練習するようになったそうです。「あなたにもできるよ」という鈴木先生の言葉が大きく影響されたのです。鈴木先生のご著書「才能開発は0歳から」にあるように、スズキ・メソードは心の放射。その通りだと深く思い知った松井先生です。
 
 会員数が伸びなくなった1990年代に、楽器科の前に教育の場を作りたいと、松井先生はフルート科の宮地若菜先生と手探りで始めた楽器以前のリズムコースを生み出されました。それを皮切りに、これまでの歩みが紹介されました。
 
・日本では鈴木先生とともに、楽器以前の教育、0歳からの教育がそれぞれの先生がお教室で実験されていました。それをグループレッスンの形にまとめようと考え、提案したのです。

 2004年に東京で開催されたスーザン先生とドロシー先生の対談を聞き、楽器前の音楽教育の必要性について、その通りだと実感。
 
・2006年に早稲田教室として初の0〜3歳児コースの教室をスタート。
・2009年ボストンで開催された第1回国際ティーチャー・トレーナー会議に出席。
・2013年の世界大会(松本)では、日本とドロシーのプログラムの両方のグループレッスンを開講。日本からはビラミッドと花びらを提案。スズキ・メソードは他の教室と何が違うのかについて、具体的に提案。
・2013年から世界的なプログラムづくりをスタート。
・2017年ドロシー先生のフレームワーク。

・2019年、マドリードで開催された第2回ティーチャー・トレーナー会議で、5大陸のSECE会議を開催。
・2023年に第3回。ISAのフレームワークの中に日本のコースの良さ、楽器以前の教育をいかに取り入れていくか、全楽器科の楽器以前の大切なところとして世界レベルでの研究を発信。
 
 続いて、松井先生は、日本の指導者養成のためにテキスト作りをされたことを紹介されました。幼稚園の先生たちにも加わって欲しいというのが本音でした。「なぜ花びらがあるのか、順番があるのか。そしてどこを目指すのか。音楽を習得する、音楽がわかるとか楽器が弾けるのは過程であって20年後にどう育っているのか、社会貢献ができる人を育てることが大切です」
 
 「カリキュラムでは、ペアレンツクラスを重視しています。鈴木先生の著書を噛み砕いて話しています。今の言葉で置き換えることで、伝わることがあります。俳句指導の実際も参考にしてみてください。目標の違いを読み取ってほしいです。俳句は英語でもやっています」
 
 世界のSECEの現状についても紹介されました。特に目を惹かれたのがタイのSECEのPR動画でした。
 
 最後に、松井先生は、1冊の絵本を紹介されました。音楽絵本「かおかおどんなかお」です。アンクルトリスのCMなどで知られるイラストレーターの柳原良平さんが 「小さい時から表情の豊かな、心の変化に気のつく人間に育っていくことを期待して描いてみた」という作品。ちょっとした書き方の違いで、楽しい顔、悲しい顔、笑った顔、泣いた顔。怒った顔、眠った顔、逞しい顔、困った顔に変化していきます。その絵本の顔に、キラキラ星の曲をアレンジして独創的な感性を豊かに育むためのオリジナルな《音楽絵本》を麻布十番教室からスズキの幼稚園、子ども園の先生方とのコラボにつながればと未来思向あふれる提案をされていました。

 「音楽を通して、人を通して、戦争を起こしてはダメだ。敗戦した日本の焼け野原で、こういうことを二度と侵してはいけない、と鈴木先生が国境を越えて、世界中の子どもが幸せになるようにと思われたように、0〜3歳児コースでは考えています。ぜひ、幼稚園、こども園のみなさんと一緒に進められればと思います」


 

午後は、7つに分かれて、グループワークを展開

 

 午後1時からは、グループワークです。Zoomの機能の一つであるブレイクアウトルームを使い、小集団に分かれての分科会的な活動を展開しました。一つの園で固まることなく、他園の保育士同士が交流を深めあう意味でも、一昨年、昨年と好評だったスタイルで、次の7つのグループで進行しました。

グループ①クラス運営について(縦割り・横割り)
グループ②ヴァイオリン指導について(講師の先生と園で携わっている先生が合同で)
グループ③行事とカリキュラムについて(主任の先生が中心)
グループ④未満児について
グループ⑤特別支援につい
グループ⑥預かり保育・土曜保育等の教育プログラムについて
グループ⑦給食について
 
各グループは、園を超えて構成されているため、同じ課題を他園はどう取り組んでいるのか、いろいろと事例を上げながら、活発に意見交換がなされました。それぞれのグループには、各園長がコーディネーターとして入ることで意見がうまく引き出され、それぞれの違いと共通する思いについても学び合うことができました。
 
 マンスリースズキ編集部は、グループ②の部屋にお邪魔してみると、本物に触れ、五感を大切にしたり、毎回宿題を出すことで両親を巻き込む形を工夫したり、3月の発表会で「キラキラ星変奏曲」を弾けることを目標にしたり、年中時の段階から年長時のヴァイオリン保育に憧れを持たせたり、自宅に園のヴァイオリンを持ち帰れることも憧れの対象にしたり、とさまざまな創意工夫がありました。
 
 また、ヴァイオリンを導入したことで、いろいろな場面で子どもたちの集中力が続く時間が長くなったこと、発表会で達成感を感じ、そのままヴァイオリンのレッスンに通うようになった事例、技術とともに心の成長を感じられる、など魅力的な結果も生まれていることがわかりました。
 

そしてグループワークの成果発表&閉校式

 最後は、各グループワークでのまとめを発表です。各園で抱える諸問題について、同じ立場の保育士さんたちが、真剣にディスカッションする姿を見て、今回の研修会は大変充実したものであったことを実感しました。こちらの写真は、成果発表時のものです。

 
 朝から出席されていた才能教育研究会の黒河内健 業務執行理事から、本日の研修会の感想をいただきました。「ブレイクアウトルームでは、なかなか普段聞くことのできないお話をいろいろと聞くことができ、大変勉強になりました。ありがとうございました。スズキの0〜3歳児コースの教室運営はずっと模索していますし、スズキの0歳から能力開発をどうするか、とても大切な課題です。ですので、今日、ここに参加されている皆様と今後どのような形で0歳からの能力開発を、現場の皆様と一緒に世の中にどのように広めていけるか、一緒に考えるコミュニティになればと思っています。今後ともどうぞよろしくお願いします」
 
 土居先生からも、最後にご挨拶をいただきました。「朝から1日、お疲れ様でした。今後の幼児教育の課題は、ニーズの高い0歳、1歳、2歳をどう育てるか。語彙の強化、言葉の習得だと思っています。スズキのやり方で、今後研究したい。そのためには、園長同士の交流については盛んですが、職員同士の交流がもっともっとできるようになりたいですね。本日の参加者が、参加できなかった同僚や、保護者の方々に、一人が二人に輪を広げてゆくことをやっていきたい。単純なことです。人間が繁栄しているのは言葉を獲得してコミュニケーションを図ってきたからです。早野理事長兼会長のお話も松井やすよ先生のお話も、想いが積もっておりました。本年度は、このスズキ・メソード幼児教育研究会の10周年ですので、何らかの形でお祝いをしたいと思います。日常の中にスズキ・メソードがある私たちらしいスタイルに、今後もしていきましょう」
 

  • HOME
  • >
  • 2024年夏期研修会